- 2008年11月10日
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チ ッ ソ 株 式 会 社
福 井 県 立 大 学
チッソ株式会社(本社:東京都千代田区大手町、社長:岡田 俊一)と福井県立大学(福井県吉田郡、学長:祖田 修)濱野 吉十(はまの よしみつ)講師らの研究グループは、ホモポリアミノ酸1)を合成する新規なペプチド合成酵素を世界で初めて発見しました。この成果は、新たな機能性ポリアミノ酸の創製、更にバイオプラスチック2)研究のブレークスルーにも繋がると期待できます。
チッソは、自然界では僅か2種類しか知られていないホモポリアミノ酸の一つであるε-ポリ-L-リジン(ポリリジン)を、放線菌を用いた微生物発酵で生産し、食品保存料として販売しています。ポリリジンは、必須アミノ酸3)であるL-リジンが直鎖状に25~35個つながった単純なペプチド化合物4)であるにも関わらず、微生物の生体内での合成メカニズムについては解明されていませんでした。
チッソ横浜研究所では、このメカニズムを解明、放線菌遺伝子研究において実績のある福井県立大学の濱野講師らと共に、2005年からポリリジンの生合成機構に関する研究を進めてまいりました。その結果、ポリリジンが従来から知られるペプチド合成酵素とは全く異なる新規酵素によって合成されることを発見しました。
この酵素は、一つの酵素だけでアミノ酸のポリマーを合成できる唯一の素材であり、既にこの酵素を応用した新規ポリアミノ酸の合成にも成功しています。
将来的にはこの酵素を改良することで、多種多様な機能性ポリアミノ酸の創製が可能となり、ライフサイエンスや医療分野への応用が期待できます。また、ポリリジンはナイロン5)と同じポリアミド構造6)を持っていることから、ポリリジン合成酵素は強靱かつ柔軟で耐油性や耐薬品性に優れるポリアミド系バイオプラスチックの酵素あるいは微生物による直接合成(バイオ変換プロセス)への応用も期待できます。これが実現すれば、バイオプラスチック研究における大きなブレークスルーとなります。
チッソは、この成果の実用化に向けた応用研究を進め、バイオケミカル分野の事業強化を目指します。
なお、この研究成果は米国化学雑誌「Nature Chemical Biology」電子版(日本時間11月10日午前3時公開)に掲載されます。
用語の説明
1) ホモポリアミノ酸:アミノ酸が単一構成成分としてペプチド結合したポリマー化合物。生物が生産するホモポリアミノ酸としては、ポリリジンと枯草菌が生産するγ-ポリグルタミン酸(納豆のネバネバ成分)の2種類しか見つかっていない。
2) バイオプラスチック:生物資源(デンプンや糖)から製造されるプラスチック。近年における地球的規模での温暖化ガスの増加や昨今における原油価格の高騰、さらにはそう遠くない将来における化石資源の枯渇問題は、必然的な流れとして植物などの再生可能資源由来のバイオマスを利用したバイオプラスチックの開発に関心を高めている。さらに、これらはカーボン・オフセット性に富み、二酸化炭素排出量増大を回避できる資材として着目されている。バイオプラスチックとしては、これまでに、「ポリ乳酸」、「ポリグリコール酸」、「ポリヒドロキシブチレート(PHB)」などのポリエステル系プラスチックが開発されている。これらバイオプラスチックのモノマー材料は微生物によって発酵生産されるが、ポリマー合成については、その殆どが有機化学的な手法で行われている。唯一の例外はPHBであり、微生物によるポリマー化が報告されている。他方、強靱かつ柔軟で耐油性や耐薬品性に優れるポリアミド系(ナイロンなど)のバイオプラスチックについては、そのモノマー材料の微生物による発酵生産については報告されているが、微生物によるポリマー合成の報告は全くない。従って、それらモノマー材料を酵素あるいは微生物により重合(バイオ変換プロセス)することが出来れば、バイオプラスチック研究の大きなブレークスルーとなる。
3) 必須アミノ酸:動物の体内で合成できず、栄養分として摂取しなければならないアミノ酸のこと。必要アミノ酸、不可欠アミノ酸とも言う。
4) ペプチド化合物:決まった順番で様々なアミノ酸がつながってできた分子の系統群。1つのアミノ酸残基と次の残基の繋がりは、アミド結合またはペプチド結合と呼ばれる。生体内で産生されるペプチドはリボソームペプチド、非リボソームペプチドと消化ペプチドの3つに大別され、酵素的に合成されるペプチドやポリアミノ酸は非リボソームペプチドである。
5) ナイロン:世界初の合成繊維である。ナイロンは本来商品名だが、現在ではポリアミド系繊維(単量体がアミド結合 (-CO-NH-) により次々に縮合した高分子)の総称として定着している。
6) ポリアミド構造:アミド結合によって多数のモノマーが結合してできたポリマー構造。